太宰治の随筆「思案の敗北」より。愛について書いた短いエッセイのなかで、大切な友人が急死したことに触れ、自ら、「盲目的愛情」と称しながら、死のあとに残される痕跡を描写する。
君の空席が、
いつまでも私の傍に在るだろう。
君、たのむ、死んではならぬ。自ら称して、盲目的愛情。君が死ねば、君の空席が、いつまでも私の傍に在るだろう。君が生前、腰かけたままにやわらかく窪みを持ったクッションが、いつまでも、私の傍に残るだろう。この人影のない冷い椅子は、永遠に、君の椅子として、空席のままに存続する。神も、また、この空席をふさいでくれることができないのである。(太宰治「思案の敗北」より)
太宰治 Dazai Osamu(1909 – 1948) 青森県五所川原市出身の小説家。