萩原朔太郎の詩集「月に吠える」の序文より。誰もが決して同じ肉体も、神経も持っていない。自分の悲しみと他者の悲しみも違う。どこまで行っても同じではない。そんな人間の深い孤独と、しかし同時に存在する、孤独者たちの世界の愛。
永久に、永久に、
恐ろしい孤独である。
人間は一人一人にちがった肉体と、ちがった神経とをもっている。我のかなしみは彼のかなしみではない。彼のよろこびは我のよろこびではない。人は一人一人では、いつも永久に、永久に、恐ろしい孤独である。
原始以来、神は幾億万人という人間を造った。けれども全く同じ顔の人間を、決して二人とは造りはしなかった。人はだれでも単位で生れて、永久に単位で死ななければならない。
とはいえ、我々は決してぽつねんと切りはなされた宇宙の単位ではない。
我々の顔は、我々の皮膚は、一人一人にみんな異っている。けれども、実際は一人一人にみんな同一のところをもっているのである。
この共通を人間同志の間に発見するとき、人類間の『道徳』と『愛』とが生れるのである。この共通を人類と植物との間に発見するとき、自然間の『道徳』と『愛』とが生れるのである。そして我々はもはや永久に孤独ではない。(萩原朔太郎「月に吠える・序」より)
萩原朔太郎 Hagiwara sakutaro(1886 – 1942) 群馬県前橋市出身の詩人。