梶井基次郎の短編小説「桜の樹の下には」より。小説というより散文詩のような作品。冒頭、桜が美しいのは死体が埋まっているからだ、と語りかける。花の美しさには、死を内包したような魔力がある。
不思議な、生き生きとした、
美しさ
いったいどんな樹の花でも、いわゆる真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲たずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。(梶井基次郎「桜の樹の下には」より)
梶井基次郎 Kajii Motojiro(1901 – 1932)大阪府大阪市出身の小説家。